モビリティサービスの展望:持続可能な移動社会の実現
目次
近年、急速に注目を集めている「モビリティサービス」。スマートフォン一つで移動手段を選び、予約から決済まで完結する新しい交通体系が私たちの生活に変革をもたらしています。カーシェアリングやライドシェア、MaaSなどさまざまな形態で広がるモビリティサービスは、都市の交通渋滞解消や環境問題への対応、高齢者の移動支援など多様な社会課題の解決策としても期待されています。
本記事では、モビリティサービスの基本概念から国内外の最新事例、そして未来の展望まで、これからの移動を考える上で欠かせない知識を分かりやすく解説します。
モビリティサービスとは
モビリティサービスとは、私たちの移動をよりスムーズで便利にする新しいサービス形態です。単なる交通手段の提供にとどまらず、出発地から目的地までの移動全体を最適化し、シームレスな体験を提供します。例えばスマートフォンアプリを通じて経路検索、予約、支払いまでをワンストップで完結できます。特に自動車以外の複数の交通手段も含めた「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれる概念が今注目されています。このMaaS実現にはAI・IoT技術など先端技術が不可欠です。近年の技術進化により、これまでの自動車産業の枠を超えた大きな変革が進んでいるのです。
実際にAI技術は現在多くの自動車開発のシーンで活用されています。詳しくは「【最新動向】自動運転技術におけるAI活用の現状と今後の展望を詳しく解説」をご覧ください。
モビリティサービスの種類
モビリティサービスにさまざまな種類があり、利用シーンに合わせて選べます。
現在最も普及しているのは「カーシェア」で、会員間で車を共有し、必要な時だけ短時間から利用できる手軽さが魅力です。よく似ているサービスとして、海外では「ライドシェア」も広く普及しており、個人間での相乗りを可能にしています。また、「カーリース」は個人向けの長期利用に適しており、契約期間中は専有できる点が特徴です。ほかにも「マルチモーダルサービス」では、電車やバス、タクシーなど複数の交通手段を組み合わせた移動をアプリ一つで完結できます。「オンデマンド交通」は予約に応じて柔軟に運行するサービスで、過疎地域の交通問題解決に役立っています。
モビリティサービスの種類 | 特徴 |
---|---|
カーシェア | 会員間で車を共有し、必要な時だけ短時間から利用できる |
ライドシェア | 個人間での相乗りで目的地に向かえる |
カーリース | 個人が契約期間、1台の車を専有できる |
マルチモーダルサービス | 電車やバス、タクシーなど複数の交通手段を組み合わせた移動をアプリ一つで完結できる |
オンデマンド交通 | 予約状況に応じて柔軟にバスやタクシーなどを運行する |
モビリティサービスが注目される背景
モビリティサービスが注目されている背景としては、以下の2つが挙げられます。
テクノロジーの進化と普及
スマートフォンとキャッシュレス決済の急速な普及により、モビリティサービスを利用するための技術的ハードルが大きく下がりました。乗換案内アプリやマップアプリの日常的な利用が一般化し、ユーザーがモビリティサービスを受け入れる素地が整いつつあります。同時に、AIやIoT、ビッグデータ解析などの先端技術の発展により、リアルタイムでの需要予測や最適なルート提案が可能になり、より効率的で使いやすいモビリティサービスの提供が実現しています。これらの技術革新が、新たなモビリティビジネスの創出と拡大を後押ししています。
社会課題の解決手段
少子高齢化が進む日本では、高齢ドライバーによる交通事故の増加や地方での公共交通機関の廃止に伴う「移動難民」問題が深刻化しています。こうした社会課題に対して、行政だけでの対応には限界があり、民間事業者によるモビリティサービスが新たな解決策として期待されています。特に自動運転技術を活用したサービスは、高齢者の安全な移動手段の確保や過疎地域の交通インフラ維持に大きく貢献する可能性を秘めています。
国内外で広がるモビリティサービスの現状
モビリティサービスは世界各国で急速に普及しつつありますが、国や地域によって発展度合いは異なります。特に北欧諸国では先進的な取り組みが見られる一方、日本ではまだ発展途上の段階にあります。技術革新とともに、規制緩和や事業者間連携が進み、より便利で持続可能なモビリティの実現に向けた動きが加速しています。
MaaS(Mobility as a Service)の普及
MaaSは交通手段の検索・予約・決済をひとつのプラットフォームで完結させる新しい移動のあり方として実際に普及が進んでいます。例えばフィンランドの「Whim」やドイツの「Qixxit」など欧州を中心に実用化が進み、シームレスな移動体験を提供しています。日本でも乗り換えアプリや配車アプリといったサービスが登場していますが、まだMaaSレベル1~2の段階にとどまっています。
異なる交通事業者間のデータ連携やプラットフォーム構築に課題があり、完全統合型のサービス実現には関連企業の協力体制や法制度の整備が求められています。
MaaSレベル | 特徴 | 例 |
---|---|---|
レベル0 | 統合なし。各交通サービスが独立して提供され、利用者は個別に検索・予約・支払いが必要。 | カーシェア各社の独自アプリ、各交通機関の個別時刻表やチケット購入 |
レベル1 | 情報の統合。異なる移動手段の情報が一元化され、ルート検索や所要時間・料金の比較が可能。 | 乗換案内アプリ、Googleマップなどの地図情報サービス |
レベル2 | 予約・支払いの統合。情報検索だけでなく、複数の交通手段の予約と決済も一括で行える。 | JapanTaxi、Uberなどの配車アプリ、鉄道とバスの共通ICカード |
レベル3 | 提供サービスの統合。複数の交通サービスがパッケージ化され、定額制や一律料金などの新たな料金体系が導入される。 | フィンランドの「Whim」、ドイツの「Qixxit」、月額定額の乗り放題プラン |
レベル4 | 政策の統合。交通サービスと都市計画・まちづくりが連動し、国や自治体の政策レベルで交通システム全体が最適化される。 | スマートシティプロジェクト、複合交通ハブを中心としたまちづくり |
参考:国土交通省のMaaS推進に関する取組について|国土交通省
モビリティクラウドを活用したシームレスな移動サービス の動向・効果等に関する調査研究|国土交通省
自動運転技術の進展
自動運転技術は急速に進化しており、世界各国で自動運転レベルにおける、レベル2(部分運転自動化)やレベル3(条件付き自動運転)の市販車が登場し始めています。日本では2020年に法改正が行われており、高速道路での特定条件下に限り公道での走行が認められています。ほかにも自動運転シャトルバスや無人配送ロボットの実証実験も各地で行われ、2025年以降の本格的な実用化に向けた準備が進んでいます。この技術はドライバー不足の解消やヒューマンエラーによる事故の減少、移動弱者の支援など社会課題の解決に大きく貢献すると期待されています。
レベル | 概要 |
---|---|
レベル0 | 自動運転システムなし |
レベル1 | 自動ブレーキや前の車について走る(ACC)、車線からはみ出さない(LKAS)など、システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施している |
レベル2 | レベル1の組み合わせ(ACC+LKAS)や、加減速、分合流を自動で行うなど |
レベル3 | 条件付き自動運転。自動運転システムが基本的に運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対して適切なドライバーの対応が必要 |
レベル4 | 特定条件下における完全自動運転 |
レベル5 | 完全自動運転 |
シェアリングエコノミーの拡大
「所有」から「共有」へと価値観がシフトする中、カーシェアリングやバイクシェアリングなどのシェアサービスが急速に拡大しています。特に都市部では駐車場不足や維持費の高さから、必要な時だけ車を利用するスタイルが支持されています。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団による2022年3月の調査では、車両台数は51,745台(前年比19.1%増)、車両ステーション数は20,371カ所(前年比5.3%増)と増加傾向にあります。このように日本のカーシェアリング市場は年々成長しており、ステーション数も増加の一途をたどっています。
また、電動キックボードやシェアサイクルなどのマイクロモビリティも「ラストワンマイル」の移動手段として定着しつつあります。こうしたシェアリングサービスは、環境負荷の軽減や都市空間の有効活用にも貢献し、持続可能な都市交通の一翼を担っています。
参考:わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移|公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
持続可能な移動社会の実現に向けた課題
モビリティサービスが社会に広く浸透し、持続可能な移動社会を実現するためにはいくつかの課題があります。環境負荷の低減、インフラ整備、そして法規制や倫理問題への対応が求められています。こうした課題を克服しながら、誰もが安全で快適に移動できる社会を目指す必要があります。
環境負荷の低減
持続可能な移動社会の実現には、環境負荷の低減が不可欠です。自動車からの排出ガスは大気汚染や温室効果ガスの主要因となっており、特に都市部では深刻な問題となっています。この課題に対応するため、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などのゼロエミッション車両の導入が進められています。また、カーシェアリングやライドシェアリングは、車両の稼働率を高め、総保有台数を減少させることで環境負荷の軽減に貢献します。しかし、電気自動車の普及には充電インフラの整備やバッテリーの生産・廃棄における環境問題など、解決すべき課題も残されています。真に持続可能なモビリティを実現するためには、ライフサイクル全体での環境影響を考慮したアプローチが必要です。
インフラの整備
次世代モビリティサービスの普及には、それを支えるインフラの整備が欠かせません。電気自動車の充電ステーション、水素ステーション、自動運転車のための高精度な3Dマップや通信インフラなど、新たな技術に対応したハード・ソフトウェアの整備が急務です。また、複数の交通機関を円滑に乗り継ぐためのモビリティハブの設置や、シームレスな支払いを可能にするための決済システムの統一も重要な課題です。さらに、都市部と地方では交通ニーズや既存インフラの状況が大きく異なるため、地域特性に応じたきめ細かな整備計画が求められます。これらのインフラ整備には莫大な投資が必要となるため、官民連携による効率的な資金調達と運用モデルの構築も重要な検討事項となっています。
法規制と倫理問題
モビリティサービスの発展に伴い、法規制の見直しや倫理的課題への対応も重要です。法規制面では、日本では「白タク行為」の規制により個人による有償ライドシェアが制限されており、海外のサービス展開との格差や本来のモビリティサービス実現ができないなどの問題が生じています。また、自動運転車が直面する「トロッコ問題」のような倫理的ジレンマへの対応や、事故を起こした場合の責任の所在なども重要な課題です。新たなモビリティサービスの健全な発展のためには、イノベーションを阻害せず、かつ安全性や社会的公正を確保するバランスの取れた規制の枠組みが必要とされています。
今後のモビリティサービスの展望
モビリティサービスは今後も技術革新とともに進化を続けるでしょう。MaaSの高度化、スマートシティとの連携強化、そしてグローバルな協力体制の構築が進むことで、より便利で持続可能な移動サービスが実現します。これにより、人々のライフスタイルや都市の在り方までもが大きく変わる可能性を秘めています。
MaaSの進化
MaaSは今後、単なる移動手段の統合を超えて、私たちの生活全体をサポートするプラットフォームへと進化していくでしょう。AI技術の発達により、個人の行動パターンや嗜好を学習し、最適な移動提案を行うパーソナライズドされたMaaSの普及が見込まれます。例えば、天候や混雑状況、ユーザーの体調や予定に合わせた移動プランの提案や、目的地での活動も含めた総合的な体験の提供が可能になります。また、定額制のサブスクリプションモデルが拡大し、都市部では自家用車を持たないライフスタイルが主流になる可能性もあります。
スマートシティとの連携
次世代のモビリティサービスは、スマートシティ構想と密接に連携して発展していくでしょう。具体的にはIoTセンサーやビッグデータ解析技術を活用し、都市全体の交通流を最適化するシステムの構築が進むと予想されます。また、再生可能エネルギーを活用した電気自動車の充電インフラとスマートグリッドの連携や、自動運転車を活用した新たな都市空間の設計など、交通と都市計画の融合が加速するでしょう。さらに、災害時における避難や物資輸送にも活用できる「モビリティ・レジリエンス・アライアンス」の開発も重要なテーマとなります。
こうした取り組みにより、渋滞や大気汚染の軽減、公共空間の有効活用など、都市の抱える多くの課題解決につながることが期待されています。
参考:発災時に被災地での車不足を解消する 「モビリティ・レジリエンス・アライアンス」|内閣官房
グローバルな連携
モビリティサービスの発展には、国や地域を超えたグローバルな連携が不可欠です。異なる国や地域間でのデータ共有や標準化が進むことで、海外からの観光客でもシームレスに日本の交通システムを利用できるようになるでしょう。スムーズな旅行ができれば満足度の向上につながり、より多くの観光客獲得につながります。
また、気候変動対策として、持続可能なモビリティに関する国際的な目標設定や共同研究開発も活発化すると予想されます。特に新興国と連携することで、既存の技術を飛び越えて最新技術に到達する「リープフロッグ現象」が起き、ユニークなイノベーションが生まれる可能性もあります。ほかにも多様な文化や社会制度を持つ国々が協力することで、より包括的で持続可能なモビリティの未来が切り拓かれるでしょう。こうしたグローバルな取り組みが、SDGsの達成にも大きく貢献することが期待されています。
モビリティサービスが創る持続可能な移動社会へ
モビリティサービスは、都市の渋滞緩和や環境負荷軽減、高齢者の移動支援など多様な社会課題を解決する可能性を秘めています。MaaSやシェアリングサービスの普及により、「所有」から「利用」へと価値観が変化し、新たな移動の選択肢が生まれています。技術面やビジネスモデルにおける課題はあるものの、自動運転技術の発展やデータ活用の高度化によって、さらなる進化が期待されます。私たちの生活や都市のあり方までも変える可能性を持つモビリティサービスは、誰もが自由に移動できる持続可能な社会の実現に向けた重要な鍵となるでしょう。
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