【開催レポート】フィジカルAIハッカソン
“クラウドなし”でも、ローカルLLM/エッジAIでここまでできる

2026年3月16日、通信やセキュリティの制約がある環境でも活用できる「フィジカルAI」をテーマに、学生および社内外のエンジニアが集うローカルLLM/エッジLLM生成AIハッカソンを開催しました。

 

生成AIといえば、「クラウドにつながっていること」が前提になりつつあります。
しかし一方で、実際のビジネスや生活の現場では、通信環境の不安定さや機密情報の取り扱いといった制約から、クラウド前提のAIが使えない、あるいは使いにくい場面も少なくありません。本ハッカソンでは「クラウドに頼れない環境で、生成AIをどう実装し、どう現場価値につなげるか」をテーマに、現場起点の実践的な挑戦が行われました。

イベント概要

本ハッカソンは、社内外から総勢115名(見学者含む)、全30チームがしのぎを削る大規模なイベントとなりました。参加者の半数以上が社外からの参加であり、オープンイノベーションの場として大きな盛り上がりを見せました。

主催 株式会社NTTデータMSE
共催 株式会社VOLTMIND、株式会社Workstyle Evolution
協賛 リョーサン菱洋株式会社
審査員

株式会社VOLTMIND 山本 直弥氏

株式会社Workstyle Evolution 池田 朋弘氏

Design Solution Forum 鷲田 龍英氏

株式会社NTTデータ 川原 慶子氏

株式会社NTTデータMSE 富岡 正志

キックオフ 2026年2月9日
成果発表会 2026年3月16日
成果発表会会場 グラングリーン大阪北館 JAM BASE 3F Blooming Camp

なぜ今、ローカルLLM/エッジLLMなのか

生成AIの活用が急速に広がる一方で、クラウド前提のアーキテクチャには、現場目線で見たときの課題も浮かび上がってきています。

  • 通信環境への依存:常に安定したネットワーク接続が必要となる。
  • セキュリティとプライバシー: 機密データや個人情報を外部サーバーへ送るリスクがある。
  • リアルタイム性の確保:クラウドとの通信による遅延が発生し、即時応答が難しい。

 

特に、製造・教育・介護といった分野では、「システムを止められない」「データを外に出せない」「即時に判断したい」という厳しい条件が同時に求められるケースも少なくありません。
そこで現在、大きな注目を集めているのが、端末やローカル環境で“その場で”推論を行うローカルLLM/エッジLLMです。
ネットワークに依存せず、カメラやセンサー、人の動きといった現実世界の情報と連携することで動くAI。
いわゆる「フィジカルAI」を実現するための基盤技術として、期待が高まっています。

キックオフから成果発表会まで

約1か月にわたる挑戦は、2月9日のキックオフからスタートしました。

 

キックオフでは、成果発表会までのスケジュールや審査基準などを共有。

希望者には、協賛企業のご協力により、NVIDIAの最新GPUを搭載した「DGX Spark」「Jetson Orin NX」や「Jetson AGX Thor」等、高性能機材の貸し出しを行い、開発環境をサポートしました。

 

また、株式会社Workstyle Evolution 池田 朋弘氏、株式会社VOLTMIND 山本 直弥氏による特別講演「フィジカルAI時代の到来」を開催。企業での導入事例や最新動向、フィジカルAIの注目ポイントが紹介され、参加者にとって視野を広げる貴重な時間となりました。

 

開発期間中、参加者は学業や業務と両立しながら、アイデアを形にするための試行錯誤を重ねてきました。

そして迎えた3月16日の成果発表会には、30チーム・計54名が参加。
開始後は、「説明する側」と「体験する側」を入れ替えながらデモ展示が進行。
実用性の高いアイデアから、思わず笑顔になるユニークな発想まで、多彩な成果物が並び、参加者同士が成果物に触れ、語り合う会場は、終始熱気に包まれていました。

選ばれし10チームのピッチ

デモ展示を通じた一次審査(審査員および観客による評価)を経て、10チームが5分間のピッチへ進出。
発表では、

  • 課題設定の背景
  • 技術的な工夫
  • 将来の活用シーン

といった観点から、「なぜこの技術で、このカタチなのか」を自分たちの言葉で語る発表が続き、現場を見据えた実装力が強く印象に残りました。

グランプリは「学生×社会人」の混合チーム

数ある優秀なチームの中から、グランプリに輝いたのは、学生と社会人による混合チーム「ビーバーズ・ハイブ」。
彼らが開発したのは、音声入力によるディベート形式で意見を整理し、どちらの主張がより論理的かをAI(最高審判官Qwen3.5)が判定するユニークなデバイスです。

 

評価されたポイントは、

  • Wi-Fi環境がない場所でも利用可能
  • MCP(Model Context Protocol;モデルと周辺システムをつなぐ仕組み)を活用したローカルLLM実装
  • 直感的で分かりやすいUI/UX

教育現場やアミューズメント施設など、具体的な利用シーンまで想定されており、「クラウドが使えない環境でも、生成AIは価値を発揮できる」ことを示した点が高く評価されました。

グランプリ受賞チーム インタビュー

「しょうもない論争も、AIだったら解決できるかも」。
そんな雑談がきっかけで、今回の画期的な構想は一気に固まったとチームメンバーは語ります。

挑戦したのは、限られたリソースのローカル環境でAIをスムーズに動かすこと。
「最初は判定にすごく時間がかかってしまった」「精度もなかなか安定しなかった」と、開発初期の苦労を振り返ります。

 

それでも、モデルの調査や検証を重ねながら改良を続け、「最終的には、精度と応答速度、その両方が納得できるバランスに近づいていった」と言います。

「新しいモデルが出ると、つい試したくなるんですよね」という言葉からは、日頃から技術を楽しみながら探究している様子がうかがえました。

 

また、機能面だけでなく、プロダクトの世界観やアニメーションにも強いこだわりがあったそうです。
「アニメーションは本当に細かくて、1秒単位で何度も調整しました」。
こうした技術と表現の両面に向き合った点も、今回のグランプリ受賞につながった大きな要因と言えそうです。

審査から見えた、3つの共通点

ピッチに進んだ10チームの取り組みから、共通する点が見えてきました。

  1. 「取らない・送らない」を前提にした設計
    生データを保持せず、特徴量のみを扱うなど、プライバシーや通信制約を後付けではなく、最初から設計要件に組み込む展示が多く見受けられました。
  2. フルスタックよりも“フルーガル”な技術選択
    巨大モデルやGPUに頼らず、軽量な推論やシンプルなアルゴリズムで目的を達成する工夫が多く見られました。
  3. フィジカルAIは、“体験”で評価される
    精度だけでなく、レスポンスの速さや操作感、UI/UXといった体験そのものが、評価軸になり始めています。

本ハッカソンが示したもの

ローカルLLM/エッジLLMは、単なる「制約下の代替手段」ではありません。
現場起点で価値を生み出す、強力な選択肢であることが、今回のハッカソンを通じて見えてきました。

「クラウドに接続しない」という前提は、できない理由ではなく、設計を見直す出発点。
参加チームの多くがその前提を受け入れ、本当に必要な機能と体験を突き詰めていました。

技術と人が動くことで、生まれる学び

参加者からは、

  • 「これは実際のビジネスに十分つながりそう」
  • 「ここまで濃く学べたのは久しぶりで、とても充実していた」
  • 「この年になって、こんなにワクワクできるとは思わなかった」

といった声が寄せられました。

 

他者の発表に触れることで、引き出しが増え、そこからまた新しい発想が生まれる。
今回のハッカソンは、高い技術力を持つ参加者同士が相互に刺激し合う場となりました。

学び、ワクワク、そして次の挑戦へ

私たちは、クレドにLet’s get excited.(ワクワクしよう)を掲げています。

 

技術を起点に人がつながり、ワクワクする場から生まれたアイデアが、次のアイデアや新たな挑戦へとつながっていく。
今回のハッカソンは、その確かな手応えを感じられる機会でした。
NTTデータMSEはこれからも、技術と人が交わる“ワクワク”を生み出す場を提供し、AIの社会実装を力強く推進していきます。