AI駆動開発の全工程展開を目指す、NTTデータMSEのチャレンジ

AIを活用し、いかに効率的かつ品質の高いシステム開発をするか──。多くの企業がAIを活用した開発の進め方を模索し続ける中で、NTTデータMSEは、すべての工程にAIを標準装備するAI駆動開発を推進してきました。2025年からは、AIが開発の中心を担い、人は価値創出に集中する「AI-Native」な開発組織の実現を加速すべく、全社的に取り組みを拡大しています。開発生産性と品質向上をどのように両立しようとしているのか。なぜ、「工程別AI最適化」(A軸)、「AI駆動プロセス変革」(B軸)という2つの軸を設けたのか。このような取り組みをする中で、どのような課題がみつかったのか。それぞれ異なる軸でAI駆動開発を推進している2人のエンジニアに話を聞きました。

 

取材メンバーの紹介

第二デジタルビジネス事業本部
サービス開発一部
テクニカルマスター
佐々木 貴弘(ささき・たかひろ)
2005年入社。無線基地局制御ソフトウェアや車載テレマティクスなどの組込系の開発に従事。2018年からは主にサーバ案件に関わる。最近は開発案件でのリーダーを務めつつ、AI活用を現場に浸透させる役割を担っている。AWS認定資格をすべて取得。

 

第二デジタルビジネス事業本部
サービス開発三部
三課 主任
松嶋 大成(まつしま・たいせい)
モバイルやサーバ案件の開発経験を経て、2024年秋に入社。現在はAI駆動開発の推進リーダーとして施策の立案、各プロジェクトのサポートに従事している。モバイルやFlutterを使った開発を得意としている。認定スクラムマスターを取得。エンジニア歴6年目。

 

第一章:現場の知恵を、全社の力へ

 

 

――まずはお二人がAI駆動開発に関わるようになったきっかけを教えてください。

 

佐々木: 私がAIに本格的に取り組むきっかけとなったのは、ChatGPTのリリースです。すぐに個人で契約し、その可能性の大きさを実感しました。AIを活用した開発は、ソフトウェア開発の前提そのものを変えると確信したのです。
一方社内でもAIを積極的に活用する流れとなり、AIコンテストやハッカソン、勉強会を開催するなど、実践と学習の両面からAI活用を促進する環境整備が行われました。さらに、社内でセキュアに利用可能な生成AI環境も早期に整備され、実務でAIを活用できる基盤が整っていました。こうした環境があったことで、現場でのAI活用が比較的スムーズに進んだと感じています。AI活用への認識が社内で広がりつつあった2025年4月、AI駆動開発コミュニティを立ち上げ、その主査として全社展開をリードしています。

※NTTデータMSEのAI活用に関する記事はこちらもご覧ください

 

松嶋: 私も佐々木と同様に、ChatGPTの登場でAIの可能性を強く実感しました。また、GitHub Copilotのリリース当初から個人で契約し、個人開発や学習に積極的に活用してきました。当初から、AIは単なる開発支援ツールではなく、エンジニアの開発スタイルそのものを大きく変革する存在になると考えていました。
AI駆動開発への関心が高まったきっかけは、社外のAIコミュニティが実施しているAI駆動開発勉強会に参加したことです。以前より外部の開発勉強会に参加していましたが、MSEに入社後はAI関連の勉強会に頻繁に参加するようになりました。他社や個人の発表を聞いたり、社外のエンジニアと話したりすることで、どのように開発にAIを取り入れればよいか知って考えることができました。これらは自主的に取り組んできた活動ですが、その取り組みが評価され、AI駆動開発施策の立案・実行や、AI駆動開発基盤の構築を担当するようになりました。

 

――2つの軸でAI駆動開発を推進していると聞きました。その全体像と取り組みの背景を教えてください。

 

佐々木: 当社が目指しているのは、「AIを使う開発」ではなく、「AIが前提となる開発」への転換です。AIが開発の中心を担い、人は価値創出に集中する――そうしたAI-Native開発組織への進化を実現しようとしています。
それを実現するためにA軸として「工程別AI最適化」、B軸として「AI駆動プロセス変革」という2つの軸を設け、並行して推進しています。即効性と将来の標準化を両立するため、この2つの軸を戦略的に設計し、全社で推進しています。

 

 

 

当社は技術志向の強い人材が多く、これまでAI活用はチームや個人ごとに分散して進んできました。会社としてもAIコンテストやハッカソン、勉強会などを通じて関心を高める取り組みは行ってきましたが、優れたユースケース全社に横展開する仕組みが十分ではありませんでした。 そこで立ち上げたのがAI駆動開発コミュニティです。現場に点在しているAI活用の知見を、誰もが使える形に引き上げることが、このコミュニティの役割です。単なる事例共有にとどめるのではなく、再現性のある形にまで落とし込むことで、全社展開できる状態にしています。コミュニティではユースケースを収集し、それを工程・プロセスにマッピング。優れたユースケースについてはすぐにプロジェクトに適用できるよう体系化し、共有する活動を行っています。

 

松嶋: 一方、私が担当しているB軸のAI駆動プロセス変革では、これまで人が実施することを前提として作られてきたMSEの開発プロセスを、AIを中核とした次世代の開発プロセスに刷新する取り組みです。AI-Native開発組織へ進化するためには、 AIを開発標準や開発プロセスに組み込む必要があります。AIを部分的な活用に限定せず、AIが最大限力を発揮できるような仕組みを作ることで、今後の開発組織全体の生産性向上とエンジニアがより高付加価値な業務に集中できる環境を実現できると考えています。そのような仕組みを作るためにも、社内の情報に閉じることなく、外部の様々な企業の情報を勉強会やカンファレンスで収集し、それらも参考にしながら進めています。

 

佐々木: どちらか一方ではなく、既存案件ではA軸で即効性を出しながら、新規案件ではB軸で将来の開発標準を構築していく。この両輪を同時に進めることで、私たちはAI駆動型プロセスへの変革を図っています。

第二章:現場を変えるのは、“再現できる”手順書がポイントだった

 

 

――現場でそれぞれが独自にAI活用を模索していた状態から脱出するためのカギが、ユースケースを誰でもできる手順書に落とし込むことだったのでしょうか。

 

佐々木: 各拠点に伺い、現場の人たちと話をすると、思った以上に活用が進んでいるところがある一方で、AIを活用すればもっと効果が出る現場もあることに気づきました。
当社では活用事例を共有する場はあったのですが、実際に使いこなすまでのハードルが高かったのです。AI活用は属人化すると広がらないため、誰でも再現できる形に整理し、手順書として展開することを最優先にしました。

 

――ユースケースを誰でも再現できる手順書に落とし込むにあたり、苦労したことはありますか。

 

佐々木: コミュニティでは週1回、リモートで議論しながら活動を進めています。
各組織から集約したユースケースは特性ごとに整理し、再現性を確保した手順書として体系化。社内ポータルで共有し、誰もが活用できる状態にしています。
手順書化で重視したのは効果の高さです。まずは工数削減インパクトの大きい領域から着手し、設計・要求定義・テスト、さらにプロジェクト管理へと対象工程を段階的に拡大しています。
最も苦労したのは再現性の確保です。収集したユースケースは個々の環境に最適化されているものも多く、そのままでは横展開が難しいケースがほとんどでした。
また、現場ごとに利用しているツールも多様で、OSSプラットフォーム「Dify」や「Cline」に加え、プロジェクトによっては「Kiro(旧Amazon Q Developer)」、「GitHub Copilot」、「Codex」、「Claude Code」なども活用しています。ツールは各工程で最大の効果が出るものを選定していますが、進化のスピードが非常に早く、数カ月単位で最適解が変わっていくのが実感です。そのため、特定のツールに依存するのではなく、ツールが変わっても適用できる形でプロセスや手順を整理していくことが重要だと考えています。
実際、数カ月前までは整備した手順でそのまま進められていたものが、ツールの進化によって別の手順に変わってしまうケースもありました。そのため手順書も一度作って終わりではなく、継続的に更新していく前提で運用する必要があります。常に最新の手順を参照できるような仕組みを整備しながら運用しています。

第三章:ツールを使うだけでは、何も変わらない。だから開発標準を再設計

 

――開発プロセスの再設計はなぜ必要だったのでしょうか。

 

 

 

松嶋: Cognition社のDevinやGitHub Copilot、Google社のNotebookLMなどの検証や、外部の勉強会に参加したりしているうちに、全体的にAIに特化した開発プロセスを定義する必要があると感じました。部分的なAI活用だとAIが持っている知識統合能力や圧倒的な処理能力を活かしきれないからです。
中でも大きなきっかけとなったのが、仕様駆動開発型の「AWS Kiro」や「AWS aidlc-workflows(AI-DLC)」、「GitHub spec-kit」の登場です。AmazonやGitHubのようなITを牽引している企業がAIを中心に開発全体を進めるためのツールをリリースしたということは、今後のIT業界ではAIを中心に設計された開発手法やプロセス、ツールが重要になってくるということです。IT業界全体がAI中心の開発スタイルへ移行が進む中、当社としても乗り遅れるわけにはいきません。
AI駆動開発は大きく2つの手法があります。一つは、AIと自然言語で対話しながら、アプリケーションを開発するバイブコーディングです。私たちも開発の現場で採用していたのですが、当社が求める品質に達しないことがありました。もう一つの仕様駆動開発は、仕様を起点に設計・実装・テストを進めるため、品質を担保しやすく、商用開発に適しています。また、最近ではAWSが提唱しているAI-DLCというAI主導型の開発ライフサイクルのニーズが高くなっています。当社は仕様駆動開発をベースにしながら、「AI-DLCの考え方を取り込んだアジャイルのようなAI主導型」と「要件や設計を段階的にしっかり作成していく品質重視型」の2軸で、開発標準の検討とAI駆動開発基盤の構築に取り組んでいます。

 

佐々木: そこで重要になるのが、ハーネスエンジニアリングです。当社は製造業との接点が多く、品質重視の文化が根付いています。AIを安全に活用し、高品質な開発を実現するための仕組みづくりにも取り組んでいます。

 

――すでに現場では仕様駆動開発を含め、AI駆動開発が適用されているのでしょうか。

 

佐々木: 半年前ぐらいから、AI駆動開発の現場適用を進めています。あるプロジェクトに適用したところ、全工程で開発スピードが向上し、生産性は改善できたのですが、課題も見えてきました。レビューの往復が増え、手戻りループが発生し、特定のスキルを持った人に負荷が集中したのです。AI駆動開発は生産性を大きく向上させる一方で、品質保証のあり方についても見直しが必要だと認識しています。従来の品質基準を前提としつつ、それをAIの成果物にも適用できる形に再構成し、仕組みとして整備していくことが重要だと考えています。

 

松嶋: 現在、実案件にどんどん適用されています。私もAI駆動開発案件にはアドバイザーとして複数案件に参画しており、それらの現場から出てきた課題については、すべてキャッチアップし、より効率的で高品質な開発ができるよう、仕組みのブラッシュアップに取り組んでいます。

 

佐々木: 品質をつくり込む上での課題はまだまだありますが、動くものをすぐお客さまに見せられるようになるのは、AI活用の最大の価値だと考えています。

 

松嶋: 現場からも、比較的好評を得ています。とはいえ品質を重視しているためバイブコーディングに比べると、時間がかかるところもあるので、そこをどう時間短縮して使いやすいAI駆動開発基盤にしていくかも、これからの課題です。

 

――AI駆動開発を現場に導入する中で、苦労したことはあったのでしょうか。

 

松嶋: 何がAI駆動開発の最適解なのか、まだ正解が見えにくいことですね。ある一定の工程ではこれだというものが決まってきてはいるのですが、佐々木も話したようにAIは日々、進化しています。今は必要な工程が、今後不要になる可能性もあります。
そこで私と佐々木はAI駆動開発コンソーシアムに参加し、最新情報をキャッチアップしています。

 

佐々木: これまでのMSEの開発標準に則っているので、適用しやすい仕組みになっています。ですが、実プロジェクトでは、目的や状況に応じて最適化するテーラリングが必要になることも多いのが実情です。コミュニティのような現場からの相談を受ける場所をつくれたこともよかったと思います。

 

松嶋: 仕組みとしてもプロジェクトごとに最適化できるようにつくっているのですが、今はまだWebアプリやモバイルアプリへの適用が中心です。当社が得意とする車載領域にも適用できるよう、整備していく予定です。

第四章:正解はまだない。今から整えておくべきこととは

 

 

――今後、開発シーンでは仕様駆動開発が主流になっていくと思われます。それに向けてどのようなことを整備していけばよいのでしょうか。

 

松嶋: AIを単純に利用するだけではなく、AIを使ってどのようにプロセスを組み立てていくのか、まずはそういう仕組みをつくることです。

 

佐々木: AIを活用した開発の仕組み化も大事ですが、先行して取り組むべきは品質を担保する仕組みの整備だと思います。
そして忘れてはならないのが、人材の育成です。というのもエンジニアの役割は変わっていくと思われるからです。

 

――どう変わるのでしょう。

 

佐々木: AIを活用することである程度生産性は向上します。ですが、AIを最大限活用するには、フルスタックエンジニアが今以上に求められるようになると思います。一方で特定のドメインに特化した知識を持つスペシャリストも求められるでしょうね。
当社ではフロントエンドからバックエンド、インフラまでを一人で開発するハンズオンを開催するなど、幅広いスキルを身につけられる様々な機会を設けています。

 

松嶋: お客さまと近い立場で開発できるようなエンジニアも必要になると思います。お客さまの要求を聞き出し、システム企画を立案する。そういう高いコミュニケーション能力が重要になるのではないでしょうか。

――最後にAI導入を検討している、迷っている企業の担当者へのアドバイスをお願いします。

 

 

佐々木: 当社はAI駆動開発を、PoCではなく商用開発で活用できるレベルまで落とし込んできました。もしAI活用を実際の開発に適用していきたいとお考えであれば、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

 

松嶋: AIは一つの手段です。それをお客さまのビジネスに生かし、価値向上につなげるには、お客さまのドメインを詳しく知る必要があります。それを可能にするため、私を含め、当社のエンジニアはFDE(技術を活用してビジネス課題を解決するエンジニア)になれるよう日々、精進しています。AI駆動開発の導入や高度化に課題をお持ちであれば、ぜひNTTデータMSEにご相談ください。

 

 

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